傷んだ書画はどうしたらいい?書画の修復・仕立て直しについて。
今回は書画の修復・仕立て直しについてです。
当店に来られるお客様からもこんな質問を受けることがあります。
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「家に掛け軸があるんだけど、折れにシワ、シミがたくさんあるんです。
そのままだとどんどん痛んでいくだろうし、なんとかできませんか?」
「多少折れやシミがあるんだけども、自分はあまり気になってなくて、むしろそれが味わいがあるようにも思うのです。
やっぱりすぐに直さないといけないもんでしょうか?」
「掛け軸を買った値段よりも表具の値段の方が高いのは不思議ですけどそんなものなんでしょうか?」
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書画でも特に古い作品が100年、500年、1000年と現代まで残っているのは、その時代時代の表具師の技術と研鑽の賜物です。
そして今この現代にも表具師の方々がいらっしゃるおかげで、書画作品を次世代に残し伝えることができます。
美術館に飾られるような名品だけが修復され、次世代に伝え残されれば良いということではありません。
『それぞれの家に代々伝わった作品』
『当代の方が購入され、これから伝わっていく作品』
それらも文化財であり、伝わった家の方にとってはこれからも大切に受け継いでいくべき宝なのです。
昔から作品が伝わっていく形も一つではありません。
親から子へ、子から孫へと受け継がれることもあれば、
我々のような古美術商を仲介として主人を変えながら受け継がれる作品もあるのです。
なにはともあれ表具師の存在とその技術がなければ元も子もありません。
表具と修復について話を進めて参りましょう。
表具と修復について
なぜ修復が必要か。
それは『次世代へ作品を残すため』『作品本来の姿を鑑賞できるようにするため』
詳しい修復の方法については表具店のホームページを参照してください。
書画屋と表具師の関係
その仕事を単純に言うならば、
書画屋=作品を探す
表具師=作品を修復する
こうなります。
当然のことながら、我々が見つける作品は全て状態がいいものではありません。
貴重な作品はその時代時代で大事にされ、ちゃんと保存されてきたからこそ現代まで伝わってきたということもあるのですが、全てではありません。
例えば白隠や禅僧の掛け軸などは、大事にしまっておくというより掛けっぱなしにされていたようで「ヤケ」や「いたみ」があるものが多いのです。
はたまた蔵で大事にしまっておいたものが、虫に喰われたりシミができてしまったりと、
当時の生活環境は今と違いますから作品にとっては修復が必要な状態で見つかることが多いわけです。
あまりひどい状態になってしまうのは残念ですが、そういったある意味自然な状態で遺ってきたからこそ、本紙に自然な時代の味わいが生まれることにもなっているので一概にその当時の保存方法を憂うことはできません。
さて、書画屋がそのようなウブな作品を手に入れて、修復が必要となれば表具師に連絡します。
そしてどこをどのように直すのか、表具の裂はどんなものを選び合わせていくのかを相談して決めていくのです。
*上記で紹介しました表具店のサイトを見ていただけると、修復前と修復後の作品の違いが掲載されています。
いつの時代も鑑賞と保存のために書画屋と表具師は一心同体といえるのです。
機械表装と手表装
当店から作品を修復・仕立て直しをする際、は全て高い技術を持った表具師による手しごとでお願いしています。
というのも仕立て直しをするにあたって、
その方法が大きく2種類あるからです。
それが『手打ち(伝統)表装』と『機械表装』です。
手打ち(伝統)表装
天然の素材から作った糊を使用した全て手作業による表装
50年・100年後の仕立て直しや修復が可能。
仕上がりまでに長い時間がかかる。
職人にしかできない仕事なので、価格は数万円〜(作品と大きさなどにより100万以上になることもある)。
機械表装
化学接着剤を使用し、高熱で本紙と表具を圧着させる方法。
接着剤を溶かすのにまた化学薬品が必要になり、
それを使用しても完全に取り除くことは難しく、その際に本紙が痛むことはさけられない。
50年・100年後の修復はほぼ不可能。
比較的新しい技術ではあるので、100年以上経ったときに機械表具した作品がどのように変化しているかわからない。
熟練した技術など必要がないので価格も安く、仕上がりも早い。
この2種類から考えて、
古いものや次世代に残したい作品を修復・仕立て直しするなら手打ち(伝統)表装にしてください。
これからも新しい技術や化学接着剤は開発され続けるでしょう。
それにより、より安く早くできるようになるかもしれません。
しかし、それが100年、500年、1000年と時間が経ったときにどう変化するのか、誰もわかりません。
考えてみてください。
今現存する作品は天然の素材を使用し、全て職人の手仕事で修復・仕立て直しをされたものです。
そしてそれは100年・500年・1000年経っても驚くような素晴らしい状態で作品が残ることが証明されているといえるのです。
自分で書いた作品を飾れるように掛け軸に仕立てたい、という保存よりも鑑賞だけを目的とするなら機械表具でもいいでしょう。
なんども言いますが、古い作品、次世代に残したいと思われる作品は必ず技術を持った職人による手打ち表装を選んでください。
修復と表装を変える場合の注意点
さらに注意点を挙げるとすると、古い作品は時代の味を損なわないようにすることです。
表具の工程の中に『洗い』というものがあります。
ここで洗いすぎると墨や色が薄くなり、それだけでなく本紙の時代色も抜けて不自然に白くなってしまうのです。
ほとんどの表具師の方は心得てらっしゃいますが、注文するときには一言添えるといいでしょう。
*どのように作品を修復、仕立て直しすれば良いのかはもちろん表具店に相談するのも良いですが、
当店のような書画店や、掛け軸も扱う古美術店に相談されるのも良いと思います。
作品ごとにどんな表具が合うのか、他の作品を見ながら参考にすることもできますし、
そのお店に出入りの表具店を紹介してもらうこともできるかもしれません。
費用について
当店でもお客様から、”掛け軸の値段より仕立て直しの方が高い。”ということをよく言われます(もちろん全ての作品がそうではありませんよ)。
そのような費用になるには理由があります。
・特別な職人だからこそ出来る仕事である。
掛け軸や屏風を仕立てる、それも何百年と受け継がれてきた作品を修復するというのは特別な職人技によりできることです。障子や襖を仕立てるのとは違います。
・需要の低さ
今や書画が生活の一部ではなくなりました。
よって表具店の仕事も全体的に少なくなっています。
だからこそ一つの仕事である程度の報酬(もちろんそれは技術の高さと比例するべきです)がないと成り立たないのです。
修復・仕立て直しを依頼する側からすると”安いにこしたことがない”と考えてしまいますが、
このままでは技術をもった職人の方が断えてしまいます。
表具に限ったことではありませんが、我々はもっと表具師のような伝統的な日本の技、文化を担う方々を評価し守るべきだとも思います。そのためにはある程度の費用がかかることは当然として、理解する必要があると考えます。
まとめ
作品に折れやシミが出るのは人間と同じ。それが作品の味というものとも考えられます。
どんな作品でもキレイに新しくするのが良いというものでもありません。
腕のいい表具師にお願いすると、その職人技で時代の味は残したまま(折れやシミはできるだけ残しませんが)キレイな状態にしてもらえます。
それによりまた次の50年ー100年間作品を残すことができますから、次世代に作品を引き継げるようになります。
単純に自分で鑑賞するために見た目をよくするだけでなく、保存の観点からも作品を修復することは大切です。
費用もかかることですから、なんでもやり買えるというわけにはいかないかもしれませんが、
表具を仕立て直しすると、また印象が変わりますのでそれも書画の楽しみの一つです。
ぜひ次の世代まで大切に残したい思った作品があるなら、修復し表具をやり直されることをお考えになってみてください。
ありがとうございました。