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書画の価格〜デパート編

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先日あるデパートに行きました。

人と会うのに少し時間があったので、デパート内にある美術品を扱うギャラリーに行ってみました。

日本画は竹内栖鳳、堂本印象。洋画は織田広喜、小林和作などが飾ってありました。

色紙や短冊を掛け軸に仕立てたものや、額装の作品が多く大きな作品はありませんでした。

自宅で普段掛けにして楽しむのに丁度いい大きさを選んであるという印象でした。

 

私も商いをしていますので、当然どのような値段をつけているのかは気になるところです。

それぞれについている価格をチェックしてみると・・・!  

洋服、時計や宝石、食品までも百貨店の値段は他よりも高いという印象はありましたが、

しかし正直その価格の高さに驚きました。

 

  確かに書画(古美術品)は誰がどこで売っているのかによって同じものでも価格が変わるものです。

それは理解しているのですが、目の当たりにすると面を食らうものですね。  

 

なぜ誰がどこで売っているかで値段が違うのか?

①作品は同じ物がなく一点物だから

書画には2つと同じものはありません。

(似たような図柄の作品があったとしても、必ず違いがあります。) ですので、

一つの作品がその時代時代で所有者が変わり、移っていくわけです。

その仲介役と言いますか、前の所有者から次の方へ移っていく中間にいますのが、我々美術商です。

同じ作品が違う美術商の手に渡るわけですから、それぞれが思い思いの値段を付けます。

作品に対する値段をつける基準はお店によって違いますから、当然違う値段になるものです。  

 

②店側の作品に対する価値観  

茶道に使うお茶道具を中心に扱っているお店が好む書画というのは、

大抵あっさりとした余り色彩の強くない花鳥画や季節の風俗を描いたものです(墨跡は除く)。

茶道具屋さんは茶席で使えない作品は評価されません。

 

一方書画を中心に扱う当店のような店は、

作者が生涯描いてきた中で”これぞ逸品である”というような名品を求めていますので、

作品自体が持っている力が強いものを好む傾向があります。

実際上記の2種類のお店では作品に対する価値観(考え方)には大きな差がありますし、

それが値段のつけ方に反映されます。

 

  ③どんなお客さんが来られるのか

お茶道具のお店には茶道をされている方がお客さんです。

その中でも家元や宗匠がお客さんの中心のお店と、

お稽古ごととして茶道教室に通う方がお客さんのほとんど、というお店では並べてある作品も価格帯も違います。  

 

書画屋でも美術館や特別な収集家だけを顧客に持つお店と、

日常に楽しむための書画を欲しい方をお客さんとするお店では扱う作品の種類も、値段も全く違います。  

  前者と後者、仮に同じ作品があったしてもその値段は大きく違います。  

 

デパートではなぜ高いのか?

デパートはどのようにして生まれたのか

その始まりはヨーロッパあたり。

値段のつけ方が曖昧で、

売り手と買い手が毎回駆け引きをするような販売をしている小売店が普通だった時代がありました。

そこに商品は全て正札をつけ、誰でも同じ値段で売り、

商品が気に入らない時や不良品であった場合、客はその商品を自由に返品できるようにした。

それがデパートのはじまりです。

  江戸時代。

同じ考え方をした人間が日本にも出てきました。

それの一人が三越の創始者・三井高利でした。

彼も同じように、今でいう消費者目線にたってお客さんがどうしたら便利に安く買えるのかを考えて、

「デパート」を作りました。  

 

それから戦争になり物不足の時代に入ります。

物を手にいれられる主な場所は自由市場(ヤミ市)で、

そこで売られるモノの相場は高く不安定で法外な値段で売られることもありました。

それでもデパートは、

「商品は全て正札をつけ、誰でも同じ値段で売り、商品が気に入らない時や不良品であった場合、客はその商品を自由に返品できる。」 という

「自らの利よりもお客さんの利を優先し奉仕する」という態度で商いをしました」(大丸社長(当時)・里見純吉氏)。

 

それでデパートはさらに顧客から大きな信用を得るようになりました。

  戦争が終わり、少しずつ復興が進む中でモノ作りをしていた人々から、

デパートでうちの商品を売らせて欲しいという依頼が殺到するようになりました。

 

焼け野原となった都市で建物の残ったこととと、デパートが得ていた信用、

デパートで売っているという信用を得たいという思いからのことでした。

 

ここからデパートそれまでの販売業から売り場スペースを貸すかわりに手数料を取る『リース業』に変わりました。

デパートで売られる商品は、売り場スペース料が上乗せされて、

値段が高くなり売られるようになったのです。  

 

(ここからは私の推測ですが、)

それでもデパートを信用し、デパートで売っているから安心できるというお客さんが集まりモノが売れる。

売れれば売れるほど、そこで売りたい人が増える、

もっと高い手数料を払っても売りたいという人が出てくる=デパートの手数料が上がる。

そして販売価格は高くなる。

 

  戦後と現在とは同じとは思いませんが、リース業になり価格が上乗せされていることは変わりません。    

 

デパートで並ぶ作品の特徴。

デパートは『信用第一』の文化から始まりました。

ですので特別な催しがあるときは除いて、明治以降・近現代の作品が中心です。

なぜ明治以降・近現代の作品が中心かというと、

近現代の作品はそれらの真贋を鑑定する機関があり、そこが鑑定書を発行してくれます。

つまり第三者が本物を保証してくれるのです。

 

もう一つは、作者が作品を入れる箱に署名をした所謂『箱書き』やシール(額装の作品の裏に作家などが作品題目と署名をする用紙)などが付随している作品が多く残っているです。

美術品を欲しいと思われる方が一番気にされるのがその作品が本物かどうかです(それが良いかどうかという議論はここではしません)。

ですので、作者本人もしくは第三者から本物である「お墨付き」のある作品、

もしくはその判別がしやすい作品=近現代作品となります。

 

  ちなみに鑑定書を取得するのにも費用がかかります(鑑定料+鑑定書発行料)。

仕入れをする時も「鑑定書付き」とか「箱書き有り」の作品は、それらが無いものよりも高くなります。 これらの購入する時に安心材料となるものも、その価格には反映されています。  

 

価格が安いにも理由があります。

ここまで読んでいただくと、

逆にデパート以外で美術品を販売している「ギャラリー」や「古美術店」での 値段がなぜ百貨店と比べて安いのかをご理解いただけたと思います。

  「百貨店に払う手数料などが作品の値段に上乗せされていない」以外にも

古美術店の方が値段が安い理由をご紹介します。

 

・店ごとの作品に対する価値観・考え方が違う(もっと魅力的な作品を知っている)から

それぞれのお店で扱うものに特徴(専門分野、店主の好み)があり、

それから外れるものは関心が低く、 相場よりも値段が安いことがあります。

 

・顧客層の違い 世の中には色々な方がおられます。

値段が高いものを買う方、安いものを買う方、高いものもできるだけ安く買おうとする方など。

それぞれに合ったお店が存在します。

古美術店でも同じです。

覚えておいていただきたいのは、

『価格帯が低いものを中心に扱うお店=贋物の店ではない』 ということです。

 

・店が鑑定・保証するので、鑑定書など第三者による真筆を保証する書類がないから。

鑑定書を取得するのにも数万円といった費用がかかります。

しかし、鑑定書や箱書きがなくても真筆の作品は数多くありますし、

鑑定会に出さなくても真贋を確かめることはできます。

信用できる古美術店はそのやり方を知っていますし、

それで真筆と判断したものを店頭に出しています。

そういったお店では鑑定書取得にかかる費用分が安くなっているだけでなく、

業界の取引の傾向として「箱書きがある」「鑑定書付き」のものは仕入れの段階で値段が高いですから、

真筆であっても「箱書き」「鑑定書」がないだけで安く仕入れられているということも考えられます。    

 

書画の価値は価格で決まるものではない。

『どこで買うのが正解だ』ということはありません。

お伝えしておきたいのは、

同じ作品であってもどこで売られているかで値段は(時に大きく)違うということです。

”デパートでは高すぎてびっくりする”という方がいれば、

”鑑定書がない相対保証の作品では安心できない”という方もおられるでしょう。

 

  書画は、お買いになるあなたが安心して気持ち良く買えるところで買われることが大切だと思います。

書画の真贋も価値も値段で決まるわけではございません。

その点は是非覚えていただきたいです。

  結局は自分が目利きで、作品の楽しみ方を知っていれば、

値段の高い低いに関わらず納得した購入ができるということです。

そして時には掘り出し物も見つけることができます。

 

  先代が遺した文章にこんな一文があります。

 

  『百万円の画でも会社の贈答品にされたらそれはただ単なる商品。

千円の書で心ある人の手に抱かれたら、それはこの世の宝です。』

 

  どうぞ色々な場所を訪ねられて、作品と価格をご覧になってみてください。

 

    山添天香堂 山添亮

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